さやなかなるときをここで...

想い出は流れるまま〜屋根

 街にヒトが少なくなった夏の夜、俺はいつもと違う場所に移動してきていた。
 この場所は何か懐かしかった、何がそう思わせるのかは自分でもわからない。ただ、初めて来た場所にも関わらずなぜか知っている雰囲気だった。
 夏の日差しは強烈かつ容赦ない、けれど外で日陰を選びじっとしている。どうせ何もすることはない、自分のために過ごせる時間、俺はそれを何もしないことに当てることが最大の贅沢だと思っている。
 翌日は変な天気だった。今日も真夏の暑い太陽と共に一日過ごすのかと思っていた午前中、陽の高度が下がり始めると真っ黒な雲に空は覆われ雨が降り出した。
 雨を避けるのも日を避けるのも同じ軒の下なんだと上を見ながら思った。
 ここは心地がいい、しばらくここにいると決めた俺は近くにいるであろう仲間達に挨拶をしに行った。気ままにやっている俺としてはあまりそういうことはしたくないのだが将来の安全を買うと思えば安いモノだ。

 そして、気に入った軒の下に行く。

 雨も上がり、空には大きい月でもでているのであろう。あたりが街明かり以上に明るい。

 ガラガラガラガラ

 目の前で、今までずっとしまっていた窓が開いた。軒の下から出て、ジャンプして移動する。着地点は思っていたより不安定だ、体のバランスを整えてしっかり座る。
 窓から顔を出したそのヒトは俺をじっと見ると、少し考えこんで、網戸を閉めた。
 その瞬間なんだかわかったような気がする、自分がこの場所に惹かれたわけを。あのヒトが関わっている空間だから、何の理由があるわけでもない。今まで会ったことは一度もない。もしかしたら、自分の体のどこかにあのヒトの記憶が残っているのかもしれない。
 屋根の瓦を再びつたいながら軒下にはいる、敵対行動をとられなかったと言うことはここにいてもいいと言うことだろう。自分に都合のいい解釈をしながら座り込んだ。

 俺の祖先の誰かがあのヒトに飼い猫として飼われていたのであろうか、その記憶が俺の代まで伝えられてきたのだろうか。遺伝子に刷り込まれた記憶なのか、もっと神秘的な何かなのか。

 遺伝子の記憶か・・・

 俺は柄にもないことを考えながら、体のどこかに流れていた想い出と屋根の心地よさ満喫しながら、何もしない幸せをかみしめていた。

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